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河野迪夫個展
KONO MICHIO solo exhibition
2011.7.23(sat)- 8.14(sun)
12:00-19:00 最終日17:00 木曜休館
会期中
東山みずほ
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河野迪夫
KONO Michio
関連データ
existence of TEN vol.3
carré à zurich
carré à zurich 告知展
carré2009
東山みずほ
私が初めて河野の作品について書いたのは、もう5程前のことである。お互いに学部生の頃だった。私にとっては、同年代の作家について批評文を書くようになった初期のことであり、また河野にとっても、与えられた課題をこなすのではなく自由制作という段階へと進んだ初めての機会であった。その時彼が作ったのは、とてつもなく大きな― 両腕を広げた私の身体よりもずっと幅のある、迫力ある作品だったと記憶している。偶然ともいえる巡り合わせによって、河野が自分独自の表現を模索し始めた原点とも言える作品について、私は短い文章を寄せたのだった。
その頃から河野はすでに生物、中でも昆虫の姿形に魅せられている。特定の虫の形態をそのまま再現することこそなかったが、やはり翅や脚、あるいは角といったパーツからインスピレーションを得、自分の形を生み出していた。今回の個展では、新たに水の生物の要素が加わっていることが想像できる。大空を飛び回り、大地を蹴り跳ね、そしてまた美しい花々の上で休息するために必要不可欠なかたち。あるいは我々人間が誕生するよりもっと昔、太古の海の底で静かに息づいていた、美しい尾ひれや自在な動きを奏でる骨。その奇妙とさえ言える形態は、自然界が長大な時間をかけて生成変化させてきたものである。
月並みな表現だが、職人という言葉がよく似合う。作品はもちろんのこと、アトリエを訪ねた時に見せてくれた道具の触り方や、展示のためにギャラリーへと届けられた作品の梱包を目にするたび、そう感じるのである。何年も金属と付き合ううちに、少しずつ変化してゆく河野の手。そこに宿っていった確かな技量と丁寧な仕事ぶりは、やがて両の手で扱える大きさの作品へと昇華されていった。
金属という素材がもつ、硬さや重さという制約。初めから頑として自分のイメージに金属を従わせるのではなく、時間をかけて触り、叩くことで、そうした素材の“縛り”と反応を体感し、自分の表現を重ね合わせていく。そうして物理性と美しさとの均衡関係から生み出されていった形と、ひんやりとした地との接触部分は、力強くて凛とした緊張感を孕んでいる。重力という法則に時に逆らい、時に従順になりながら静かに屹立する河野の作品は、それこそ厳しい自然界で果敢さと柔軟さをもって生きる小さな生物たちの姿を、私に想起させるのである。
山塙菜未