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小林寛人個展
KOBAYASHI HIROTO Solo Exhibition

2010.7.25(sun)-8.08(sun) 12:00-19:00
木曜休館
小林寛人 
KOBAYASHI Hiroto





関連データ

小林寛人個展2009

carré à zurich
carré à zurich 告知展
carré2009
carré2008
 彼はいつも同じ視座から、物事を見つめている。彼が作家として表現したい物も、おそらく変わっていない。経験を重ね、深く、明快になっているとは感じるが。
 彼とは6年の交流があり、私は彼の作品を見続けて来た。彼は自身の制作に対し、嘘をつかない。常に絵画に素直に向き合っている。ここ数年は、不要なもの削ぎ落とす事で画面をより密度の濃い物にし続けている。
 一緒にグループ展を行った2007年の作品ではすでに、色彩の響き合いは最小限になっていた。使われた絵具はホワイトとアンバーのみで、ペインティングナイフでぼんやりと描かれた椅子のある風景が描かれているだけだった。写真を撮ったら、白飛びしそうなくらい明るいトーンで描かれた画面の中で、彼の仕事の痕跡とモチーフはシンプルかつ複雑に絡み、響きあっていた。その後、発表を重ねるごとにモチーフは抽象的な図形やイメージとなり、その重要性は希薄なものになっていった。その事で彼の仕事はさらに際立ち、観る者の感性により訴えかけるようになっていた。
 そして今回。制作された6点の作品からは、もう彼の仕事の痕跡しか認識できない。ナイフで2色の絵具を画面に重ねて行く。そしてその積み重ねのみが画面を形作っている。
そこには、作者の主張すらも描かれていない。表現したい物を見つめ続け、余計な物を無くした結果、残ったのがこれらの痕跡なのであろう。
 今回の展示は、これまでで最も抽象性の高い物である。彼の作品を観ると、今を生きる彼の、思索の道程を絵具の重なりから見出される。彼は今までで最も少ない要素によって、彼や彼の作品を観る者、そしてそれを取り巻く世界のありようそのものを認識しようとしているように感じる。そのことはまた、自分自身がいま、ここに確かに存在しているのだという内省的な認識をも促す。その距離感はとても心地よく、落ち着き、観る者を自由な思索の世界に連れ出してくれるであろう。

                金子真之介