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阪井ひとみ 陶展
SAKAI HITOMI Solo Exhibition
2010.3.05(
fri
)-17(wed) 12:00-19:00
木曜休館
阪井ひとみ
SAKAI Hitomi
関連データ
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猫のような脚をもつすらっとした椅子、高くそびえる塔や工場の建物、暗い夜道を照らす長い街灯…。阪井は言う。一見堅固でバランスのとれたそうした形態を眺めているうちに、脚はくねり出し、建物は左右に大きく揺れ始め、まるで生き物のように見えてくるのだと。メルヘンの世界で幼い少女がふと腰かけた大きなキノコが、突然ゆらゆらと動き出し少女を包み込んでしまうように。阪井の形態に対するこの想像力豊かで独特な感性こそ、彼女の作品の世界観を形づくる源となっている。
今回の個展でテーマとなるのは“鍵”である。手の平におさまってしまう小さな鍵を思い浮かべる。ゆったりと曲線を描いたかと思うと細く、長く伸びていく、そのひんやりとした不思議な形。右が欠け、左に腕を出し、不揃いなリズムで刻まれた胴体は無数のバリエーションを生み出し、アシンメトリーであるが故の魅力を持っている。それは阪井の目に、まさにアンバランスで奇妙な形態として映り、彼女の手によって鍵は自在に姿を変え、一つのオブジェと化す。
そうして自由な造形を得た阪井独自の鍵は、さらに彩色を施されることで柔らかく、そしてかわいく変貌していく。また“鍵”は、阪井の人生において今も記憶に残る出来事や印象深い光景をも象徴的に表している。そうした様々なキーポイントを経てきた自分自身の年齢を阪井はタイトルの中にも暗示している。無限の色の組み合わせ、無限の模様の組み合わせ…。彼女の作品から溢れ出るそのパステル調の心地良さは、一般的な焼き物の色としては珍しいとさえいえる独特の淡い色調が生み出しているのだろう。試行錯誤を繰り返して得たこの色彩は、器や茶碗、小箱などの実用的な作品にも常に現れ、焼き物というジャンルの多様性を示してくれると同時に、阪井の不思議な世界観を見事に表現しているのである。
山塙菜未