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松永敏 個展 ー縛りの螺旋ー
MATSUNAGA BIN Solo Exhibition

2010.3.19(fri)-31(wed) 12:00-19:00
木曜休館
松永敏  
MATSUNAGA Bin





関連データ

carré à zurich
carré à zurich 告知展
carré2009
carré2008
アンバランス・フラクタル(※1) 
ー 松永君の個展開催に際して

 松永君が個展を開くという。思えば私が彼と知り合ってから、その仕事をまとまったかたちで目にするのは初めてだ。彼の仕事を初めて知ったのはある公募展の審査でのこと、選考時は名前も素性もわからずただ各々の作品と対話し、その視覚的な言葉に耳(目)を澄ま(凝ら)すのである。結果、彼の作品は満場一致で難なく最高位の賞を受賞することになるのだが「冬鏡」と題されたその作品の印象は「若い作家だろうか?それにしてはえらく達者だなぁ?でも古くないし…」という不思議なものだった。日本画の絵具はたとえ同じ色であっても粒子や質、扱いの違いから多様な表情を表現出来る可能性を秘めている。「冬鏡」は白い色をベースにした作品であったが、例えば雪の種類が沢山ある様に実に 多様な白を見事に発色させて画面を豊かにさせており、私をその画面に対して幾度も近寄ったり離れたりさせた。

 ところで、唐突ではあるがオリジナリティとは何だろう? 私たちは奇をてらったものの事を「個性的」などと呼んでしまいがちだが、本来は自身の足元をしっかりと周囲を確かめながらその足で歩んで行くことで得られるものこそがオリジナリティなのだと私は考える。松永君の仕事に窺えるものについて考えてみると、色彩・形・筆致・モチーフ・構図などの絵画の骨格である要素に於いての計画性が、私には到底真似出来ない程優れている。悔しいことに抜群なのだ。まるで円熟した大家の様に。しかしながらそれでいて絵画の最も重要であるテーマに於いては実にピュアであり、そのアンバランスさ(と、言い切ってしまうのは些か乱暴ではあるが)が彼の仕事のオリジナリティなのかもしれない。そ してなによりあのしっとりした色=絵具の質感は他に類を見ない。
 私は件の審査の数年後に本人と深く交流を持つことになるのだが、その驚く程の謙虚さと素直さ、それでいて実に緻密で繊細な配慮と問題処理能力は一回り近く年下の後輩とは思えない程で羨ましい限りである。と、同時にまるで高校二年生の野球部(多分遊撃手)の様な風貌とのギャップもまた、彼のアンバランスな魅力のひとつなのだろう。

 そんな松永君が新しいベクトルを歩み始めた。私はまだその一端を覗いただけなのだが、これがまた不思議なのだ。例のアンバランスな感じと「しっとり」は健在なのだが何かが違うのだ。今回はその新作を見渡せるとの事で、これを記している今でも直ぐに彼のアトリエを覗きに出向きたい衝動を抑えている。


        平成22年 冬の暖かい日の夜  
        金沢美術工芸大学准教授 佐藤俊介



※1 フラクタルとは、簡単に言ってしまえば、ある複雑な形をどんなに拡大してみても同様に複雑な形が現れ、無限に複雑な形であるといったもののこと。例えば海岸線が挙げられる。
縛りの螺旋

猫が引っ掻いた壁の傷は、私の負の財産である。
と同時に、住居との関係を強くする鎹(かすがい)とも言える正の財産であり、加えて造形的に面白く、楽しませてくれている。
岩絵具は、とにかく画面に置くまでが面倒だ。
膠を溶かすだけでも時間がかかるのに、その膠となじみにくい絵具がある。
時間と労力を費やすが、それは絵具や対象や画面と対話するために与えられていることでもある。
岩絵具は、とにかく扱いが難しい。
濡れているときと乾いているときの発色が全然違うし、粒子の粗さやものによって使い勝手が違う。
扱いは困難だが、そのぶん無限の表情を作り出す可能性を秘めている。

近頃、私と縛りあっている関係であるもののことについてよく考える。
「縛られている」とは一見、不自由を強いられているような印象を受けるが、縛られていることで獲ているものがあるのではないだろうか。
「縛られている」状況を、違った角度から見てみると、「与えられている」とも思えるのである。
壁の傷や岩絵具がそうであるように、私を取り巻くさまざまなものが、私とのあいだに「制限し、且つ与える」という関係を築いている。
その関係にふと気付けたとき、私は自分らしさに出会えたように感じるのである。
愛すべき縛り。
肯定すべき矛盾。
そんな出会いを私を最も縛っている日本画で描けたらいいなと思う。

そして、縛りの螺旋で生きていくことを覚悟するのである。


 松永 敏
めくりあがらぬ睫
130.3×89.4
雲肌麻紙、岩絵具・金箔・胡粉・水干・墨
2009
人見知り娘
130.3×89.3
雲肌麻紙、岩絵具・胡粉・水干
2010
5814の遊戯
162.0×324.0
雲肌麻紙、岩絵具・銀箔・胡粉・水干・墨
2009
伊達眼鏡男とシロ
130.3×89.3
雲肌麻紙、岩絵具・胡粉・水干
2010
春鏡
162.0×162.0
雲肌麻紙、岩絵具・胡粉・水干・墨
2005
スミ子とシロクロ
198.0×198.0
雲肌麻紙、岩絵具・胡粉・水干
2010