「内と外」:ガラスの境界が織り成す物語
今回、横山翔平の個展でメインとなる作品は、「呼吸」。彼曰く、心のバランスをとる為に排出する気持ちであり、自身から出る心の形だという。それはまるで、臓器のようだ。自分の内に吸収された何かが、自己というフィルターを通してある形を成し、外に吐き出される。身体的な呼吸が生きていく上で必然であるように、何かを取り込み、吐き出す精神的な「呼吸」もまた、自身を保ちたいと願う心には、必須の作業だろう。
「内と外」は、彼の継続的なテーマだ。ガラスという境界線によって遮断された内と外。彼のガラスが作り出す隔たりはまた、空気のように軽快で、浮遊した2つの空間によるデリケートなバランスが語り始める。作品「Cage」では、ガラスの内に薊の綿毛を封じ込めた。ガラスによって優しく外側から保護された、小さくて軽い、フワフワとした種子たち。その「内と外」には、彼の繊細な愛おしさが溢れている。また、柔らかな楕円形をした中空のガラスに閉じ込められた水は、生命の源を象徴し、純粋であり続ける根幹と、均衡を保ちたいと欲する彼の精神性を吐露している。包み込み、排除する、ガラスによるいくつもの境界が織り成す世界が、静かだが深く、見る者に語りかけてくる。
土田 ルリ子
(つちだるりこ・サントリー美術館 学芸副部長)