鉄とは、金属元素の一種。元素記号Fe 原子番号26 原子量55.847 比重7.88 融点1530℃…
鉄という字、正字では「鐵」と書く。「金の王なる哉」という意である。しかし常用漢字の「鉄」は「金を失う」と書く。金属を扱う者としてそれはあんまりなので、今回のタイトルは縁起をかついで正字を用いる事にした。
人類と鉄との関わり合いは古く、およそ五千年も前からである。その長い年月の中で、鉄は武具としての役割を果たす。平和時代には産業,文化を発展させ、大いに貢献してきた。時代とともに鉄は人類の近くに存在し、生活を支え、喜怒哀楽をともにしてきた。
金沢に移り住んで6年。
とにかく鉄がよく錆びる。雨、雪、湿気の多いこの地は、錆びさせるのには相応しい場所である。自然の力に、目に見えて反応する錆。それはまた四季を感じ、吸収し、生き続けていく証でもある。「鐵」とはそんな人間味あふれた素材である。
火を使い、金槌を使い、思いどおりのカタチに近づけていくという長い作業の中で、重く冷たい鉄の感覚が、まるで正反対のものとして生まれ変わっていく。瞬間を手の中で感じ取りながら、ひとつひとつカタチにしていく。そんな素材との対話を愉しみながら、少しでも温かみやぬくもりを感じとれる、どこか心が落ち着くカタチ達を生み出していければと。
2010 坂井 直樹