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濫觴〜巧術其之陸
[らんしょう〜こうじゅつそのろく]

2015.11.06 (fei) - 25(wed)
12:00-18:00 木曜休館

at Gallery点
らん‐しょう〔‐シヤウ〕【濫×觴】
《揚子江のような大河も源は觴(さかずき)を濫(うか)べるほどの細流にすぎないという「荀子」子道にみえる孔子の言葉から》物事の起こり。始まり。起源。
「私(わたくし)小説の―と目される作品」
提供元:「デジタル大辞泉」

「ふるさとは遠きにありて思うもの 近くばよって目にも見よ」(筒井康隆「天狗の落とし文」2001新潮社)


来年自分が美術にかかわる仕事をはじめてから四半世紀、さらに父が店を開けてから半世紀という刻を迎えるにあたり、池内家の美術商としての故郷である金沢という地に於いて展覧会を開催しなければならない、といった義務感が昨年あたりから強く感じられるようになった。
キュレーター自身の個人的な感情が展覧会のコンセプトに作用するというのは、矜持としても「いささか」ではあるのだが、「巧術」シリーズ展開催の度に感じる原点への立ち返りを思えば言い訳にもなろうか。

正確には金沢は私にとっての故郷ではない。アレックス・ヘイリー「ルーツ」的な原点への渇望、あるいは郷愁といったものを歪に肥大化させた愛情の対象とでも言うべき土地である。
外様百万石という保守性の中で花開いた絢爛な文化、主要な都市でありながら空襲を受けなかった(灯火管制の徹底?)ために残された古い街並、と、そこに類例を見ない優れたシステムを持つ現代美術館が鎮座する・・・ここは実に日本的な空気を持っていながら、実は現代の日本とは全く違う場所なのではないかと来沢の度に深く感じるのである(尤も高校時代の同期生である粟津温泉の旅館亭主が、新幹線のおかげで諸々が平均化しつつある云々と怒り狂っているのはわからないでもない)。

「巧術」というアイデアには、この日本的なものである/ない、という点が実は非常に重要なポイントとなってくる。後述の基本理念をご一読いただければおそらくご理解頂けると思うのだが、日本に於ける現代美術の在り方の持つ矛盾を突き続けていきたいという思いがこのシリーズ展の基礎となっているからだ。長い長い時間が作り上げてしまった矛盾といったものを展覧会の開催程度でひっくり返せるなどとは夢にも思わないのだが、(毎度の読みにくい)副題のとおり、「巧術」は精神の地理的原点へ向かう。
「巧術」を語り続け、見せ続ける力をこの地の持つ独特のエネルギーといったものから借りることにしよう。

「巧術ー基本理念」2010年4月発表/2014年5月改訂

18世紀、西欧でfine artという概念が確立されて以降、実用的価値をももつ応用芸術とそれは明確に区別されてきた。応用芸術に対して純粋芸術ともよばれるfine artは、実用的機能とは切り離され、美術としての価値が格上げされたのである。
この概念は明治以降、日本にも取り込まれた。日本の長い美術の歴史に実用から離れた美術品はなかったにも関わらず、明治以降は政府主導で純粋芸術の絵画、彫刻が制作される。一方、江戸時代以前より培われてきた優れた美意識と、それを裏付ける技術は、工芸品としての地位に甘んじることになるのだ。
純粋芸術と工芸(応用芸術)に分かれた日本美術はその後、次なる潮流“現代美術”の洗礼を受け、さらに新しいジャンルを確立することになる。
今日本の美術で世界から注目を集めているのは、主に現代美術の洗礼を受けた一部の作家たちである。一方日本国内市場は狭く、閉塞感に満ちている。古美術品は世界でも評価が高いにも関わらず、今日の日本美術に対する危機感を多くの人が感じているのである。

こうした閉塞感、危機感への率直な返信として「巧術」は企画された。

単なる異国趣味、日本趣味に基づかない、より日本の美術ならではの在り方を模索する上で鍵となるのは、もともとあった日本美術の遺伝子である「工芸的」なるものを支える「技巧」である。

「巧術」は、この「技巧」を新たな武器とし、それゆえに練り上げられた作品コンセプトを妥協することなく、自らをより高みへ運ぼうとする作家達のたゆまぬ歩みによって、これまでの現代美術とは一線を画した、新しい価値観の創造を目指す。即ち、日本が古来からもつ力をもってして、日本美術の未来、その独自性、その可能性を具体的に示唆しようと継続的に目論まれる展覧会なのである。


「巧術」シリーズ展キュレーター 池内務
主催: 巧術計画機構
後援:北國新聞社/ テレビ金沢/ 金沢経済新聞

出展作家協力:
ギャラリー小暮
ギャラリー点
KOGEIまつきち
幕内政治[ex-chamber museum]
株式会社レントゲンヴェルケ

出展作家(18名)
あるがせいじ
石黒賢一郎
石野平四郎
磯部勝士郎
伊藤航
太田翔平
上路市剛
児玉香織
佐藤好彦
高木基栄

平林貴宏
牧田愛
水野シゲユキ
満田晴穂
山岸紗綾
山本タカト
山本隆博