藤原絵里佳の作品は「水平と垂直」の美学を感じる。
2008年、21世紀美術館で行われた、金沢美術工芸大学修士修了展の藤原の炭化冷却還元で焼成された褐色の作品は、広大な平原に先端をとがらせ垂直に伸びてゆく円錐の形が、自然の空気を取り込んで溶け込み、遥か地平線を連想させる作品であった。
炭化冷却還元とは、土が冷める時に炭素を吸い温度差によって多彩な表情を作り出す焼成技法である。藤原は、窯に詰めた作品の周りにレンガを積み、作品を籾殻で埋め、還元の雰囲気を作りだす。その大胆な手法で焼成された素朴な土の表情は、見る者に何か懐かしい過去の時間と風景を思い起こさせる。
藤原の表現は見る者と共有する記憶の往還から、それぞれの潜在する思いを引き出す事にある。
思いのスケールの大きさは、作品の大きさではなく内面に反映する。今回の個展で見せる世界もきっと大きなスケールで過去と未来を結びつける「水平と垂直」の空間を見せてくれると思う。
金沢美術工芸大学教授 板橋廣美