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戸出雅彦 個展
2009.5.08(fri)-20(wed)
12:00-19:00(最終日17:00)木曜休館

戸出雅彦
TOIDE masahiko
今九谷
1995年の戸出雅彦の作品に「色絵皿ジョン」がある。抽象的に大胆に区画された九谷五彩の色面に囲まれた余白に,能登呉須で直線的に骨描きされた犬が一匹歯をむきだして闇に向かって吠えている図である。かつて80年代のニューヨークのソーホーを拠点に一世を風靡したキース・へリングやミッセル・バスキアなどのストリートアート系の連中の絵画と部分的に重なる絵柄が、彼らより少し上品に描かれている。本歌は80年代のアメリカの若者たちの鬱屈した心情の爆発がアート表現されたものであった。戸出の場合にも彼の出自に関わる表現者としての葛藤の心の叫びを「ジョン」の姿から読み取ることができる。
 金沢美大工芸デザイン専攻を卒業後に、焼き物の作り手として出発した頃の彼の作品は九谷焼きの伝統的な表現からは距離を置いていた。主に、陶土の状態変化を表面に印した艶消しの赤を基調にした本体と、小物の部品からなる抽象的な、何処か寓意のきいたユーモラスなオブジェを東京や京都で発表して注目されていた。
 現代の九谷焼の直系と言える家の次男に生まれた宿命を背負った戸出が、意識の中でその世界から出ては又戻るという葛藤を繰り返しながら、徐々に九谷の絵付け技法を独自の表現にまで昇華して行くまでには殊の外多くのエネルギーを費やしている。
 色絵皿の「ジョン」は、しがらみから脱出して自由の身になることを宣言しているように見える。それが証拠に、その後次々と繰り出される「戸出流今九谷」は益々奔放で造形と五彩が、時には激しく時には静かに絡み合い独自のハーモニーを奏でている。
 金沢美大、四日市、卯辰山、フィラデルフィアと巡った旅は伊達ではなかった。これから先どこまで「ジョン」を飼い馴らしていくのか楽しみである。

            陶造形家 金沢美術工芸大学学長 久世建二


※   九谷五彩 …色絵磁器「九谷焼」に使われる代表的な5色の絵具のこと。青(緑)、黄、紫、紺青、赤。
※   能登呉須 …九谷焼などで色絵具下に描かれる黒い線描用の絵具こと。